勲碧酒造株式会社 勲碧 大吟醸
ゴールデンウィーク後半、五連休初日の5月2日は名古屋にいた。前日に行われたハードな撮影仕事から解放されたせいもあって、駅前のビジネスホテルでの目覚めはいつになく爽やかだった。根城である東京から名古屋までは機材を山盛り積んだ社用車で来ており、今日はどうせ激混みであろう高速道路を走って帰京するだけの予定。運転手役の制作スタッフを少しでも長く休ませたくて、ホテル出発時刻は11時としていた。
9時にベッドを抜け出しシャワーを浴び、1Fのレストランで朝食を食べ、部屋に戻りノートパソコンでメール連絡を数件処理したところで、時計の針は10時すこし前。ふと思いつき、出発までのあいだ駅前の百貨店を冷やかすことにした。
雲ひとつ無い青空と眩しい陽光のなかを歩く。Tシャツがうっすらと汗ばんでくる。5分ほど歩いて百貨店に着くと、開店直後の手つかずの澄んだ空気がとても心地よかった。特に買いたいものがあるわけではない、そういう心持ちで紳士服売り場をぼんやり歩いたのだが、案の定買い物のアイディアは湧いてこなかった。
Tシャツの汗が引いたところで、こんどは地下に降り、酒売り場をのぞいてみることにした。すぐさま試飲ブースが目に飛び込んできた。アイスクーラーでよく冷やされている四合瓶の銘柄は、初めて目にするものだった。売り子の女性が試飲可能な種別を教えてくれた。その中から、私は大吟醸を選んだ。
鼻を近づけると、ひんやりした感触と幽かな吟醸香がともなってくる。ひとくち含む。舌の中ほど、その両サイドに薄い氷の切片のごとく甘さとほのかな酸味が沁みてきて、飲み干せば酸味をくるんだ甘さが螺旋状に喉元をすべり降りてゆき、半拍おいたのち、舌先に果実様の甘みが浮かび上がってくる。この甘みと、舌の中央奥に突如余韻として現れた辛味が足並みを揃えてきれてゆくのだった。総じて、軟水からくる甘口の味わいが何とも優しく、体にしみわたる。
試飲してから会計終了まで、ものの3分といったところ。紳士服売り場では全く機能しなかった購入欲が、こと日本酒売り場では電撃的に花開いたのだった。
この愛知の酒を東京の自宅で味わうたび、私の脳裏には購入当日の、名古屋の澄み渡った青空や百貨店内の空気なんかがありありと浮かんでくるのだ。
勲碧酒造株式会社 勲碧 大吟醸
都道府県:愛知県
原料米:全量兵庫県産山田錦
精米歩合:40%
日本酒度:+3.5 酸度:1.1
アルコール度数:16.0~17.0
使用酵母:協会10号
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