日本酒

勲碧酒造株式会社 勲碧 大吟醸

ゴールデンウィーク後半、五連休初日の5月2日は名古屋にいた。前日に行われたハードな撮影仕事から解放されたせいもあって、駅前のビジネスホテルでの目覚めはいつになく爽やかだった。根城である東京から名古屋までは機材を山盛り積んだ社用車で来ており、今日はどうせ激混みであろう高速道路を走って帰京するだけの予定。運転手役の制作スタッフを少しでも長く休ませたくて、ホテル出発時刻は11時としていた。

9時にベッドを抜け出しシャワーを浴び、1Fのレストランで朝食を食べ、部屋に戻りノートパソコンでメール連絡を数件処理したところで、時計の針は10時すこし前。ふと思いつき、出発までのあいだ駅前の百貨店を冷やかすことにした。

雲ひとつ無い青空と眩しい陽光のなかを歩く。Tシャツがうっすらと汗ばんでくる。5分ほど歩いて百貨店に着くと、開店直後の手つかずの澄んだ空気がとても心地よかった。特に買いたいものがあるわけではない、そういう心持ちで紳士服売り場をぼんやり歩いたのだが、案の定買い物のアイディアは湧いてこなかった。

Tシャツの汗が引いたところで、こんどは地下に降り、酒売り場をのぞいてみることにした。すぐさま試飲ブースが目に飛び込んできた。アイスクーラーでよく冷やされている四合瓶の銘柄は、初めて目にするものだった。売り子の女性が試飲可能な種別を教えてくれた。その中から、私は大吟醸を選んだ。

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鼻を近づけると、ひんやりした感触と幽かな吟醸香がともなってくる。ひとくち含む。舌の中ほど、その両サイドに薄い氷の切片のごとく甘さとほのかな酸味が沁みてきて、飲み干せば酸味をくるんだ甘さが螺旋状に喉元をすべり降りてゆき、半拍おいたのち、舌先に果実様の甘みが浮かび上がってくる。この甘みと、舌の中央奥に突如余韻として現れた辛味が足並みを揃えてきれてゆくのだった。総じて、軟水からくる甘口の味わいが何とも優しく、体にしみわたる。

試飲してから会計終了まで、ものの3分といったところ。紳士服売り場では全く機能しなかった購入欲が、こと日本酒売り場では電撃的に花開いたのだった。

この愛知の酒を東京の自宅で味わうたび、私の脳裏には購入当日の、名古屋の澄み渡った青空や百貨店内の空気なんかがありありと浮かんでくるのだ。

勲碧酒造株式会社 勲碧 大吟醸
都道府県:愛知県
原料米:全量兵庫県産山田錦
精米歩合:40%
日本酒度:+3.5 酸度:1.1
アルコール度数:16.0~17.0
使用酵母:協会10号

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剣菱酒造株式会社 特撰 黒松剣菱

琥珀色の液体を口に含めば、

1.煙たい甘さが流線型にひろがり、
2.舌の中央部にきりり、と辛味をもって収斂し、
3.後口に穀物様の香ばしさが残る

という順に味わいのドラマが展開する。このドラマは「様式」と呼べる域にまで達していて、たとえば「水戸黄門」がいくら回を重ねようとも必ず勧善懲悪で終わるのと同じように、剣菱における上記「1.2.3」は杯を重ねても全く崩れることなく繰り返されるのであった。

ところで、このラベルデザインは格好良すぎますよね。

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水戸黄門が出てきたついででいえば、1話くらい剣菱の文様の刻まれた印籠で「ええいえええい控えおろうぅぅぅ!!」ってやってみても、悪人はひれ伏してしまうような気がするなあ。特に飲兵衛の悪人ならなおさら。(そ、そうか?

剣菱酒造株式会社 特撰 黒松剣菱
都道府県:兵庫県
原料米:山田錦・愛山
精米歩合:70%
日本酒度:+0.5 酸度:1.6
アルコール度数:15.8
使用酵母:剣菱酵母

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加越酒造 酒峰加越(朱ノ吟)

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大吟醸酒らしく、若い梨のような立ち香が漂う。ひとくち含むと、さあっと口中いっぱいに若々しい甘さがひろがり、続いて雷光のごとく塩辛さが押し寄せるものの一瞬でピークを迎え、米由来の甘さと入れ替わって幕が下りる。

味わいの流れがとてもリズミカルで心地よく、キュートな酒です。そうした印象は、「朱の吟」について検索するうちhitしたこの記事、ひいてはこちらのブログの印象にも相通ずるものがあります。面白くて読みふけっちゃいました。

加越酒造 酒峰加越(朱ノ吟)
都道府県:石川県
原料米:山田錦
精米歩合:38%
日本酒度:+4.0 酸度:1.3
アルコール度数:15.0~16.0
使用酵母:協会9号

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株式会社吉田酒造 大吟醸 本流 手取川

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10~15℃が最適です。
5℃以下に冷やしすぎると香りが薄くなり、また若干の苦みが感じられます。

製造元のHPにこう書かれているのを知らず、開栓一杯目はキンキンに冷えたところをぐい、と呑んでしまった。たしかに香りは、あまりにあまりな素っ気なさだった。

けれど、ここから常温に戻ってゆくうち、立ち香に苺の香りが徐々に現れてきた。加えて、後口に藁の香りが漂うようになってくる。カタカナで表現すればフルーティにはじまりアーシー(earthy)に終わる酒、とでもいえそうで、そのギャップがおもしろい。

株式会社吉田酒造 大吟醸 本流 手取川 
都道府県:石川県
原料米:山田錦
精米歩合:40%
日本酒度:+6 酸度:1.0
アルコール度数:15.8
使用酵母:金沢系

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天鷹酒造 有機 純米吟醸 天鷹

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猪口からしずしずと吟醸香が立ち昇る。口に含めば、丸みを帯びた味わいがさっ、と舌の上を流れてゆく。続いて、滋味の余韻とでも呼ぶべき香りが現れるが、儚くもあっという間に消えていった。この後口の短さは、創業時より「辛口でなければ、酒ではない」との言葉を標榜するこの蔵独特のものである。

「有機」であることに徹底して拘ったこの酒から、私は「しん、とした静けさ」を強く感じた。暗騒音が極めて小さい状況においては、僅かな物音でも大きく聞こえるようになる。これと同じ理屈が味わいに現れているような気がしてならない。すなわち「有機」であることの影響は、味わいそのもの(物音)よりも、味わいの背景(暗騒音)にこそ強く現れるのではないか、と思うのだ。

天鷹酒造 有機 純米吟醸 天鷹
都道府県:栃木県
原料米:有機ひとめぼれ
精米歩合:50%
日本酒度:0 酸度:1.7
アルコール度数:15.0
使用酵母:栃木県酵母

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神亀酒造株式会社 ひこ孫 純米

口中に広がる、ややくすんだ甘み。ものすごく鮮やかで、原色をふんだんに使った絵が古びたような味わいがある。

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そして何といっても、この酒の凄さは燗をつけたときの”伸びしろ”である。同じシリーズの純米吟醸では感じられなかったんだけど、何というか…間逆のベクトルを含んで進化する、とでもいえばいいのか。「甘いけど辛く」「濃厚だけど軽く」「鮮やかにくすむ」、みたいな世界を現出させる。

私の購入したぶんには付いていなかったんだけど、なんでも「このお酒は、35歳以上で人生の機微がわかる方におすすめします。」と書かれた”しおり”が存在するんだとか。これ、あながち的外れな言でないと思う。燗での化け具合を見切るには、人の化け具合を見切れる人生経験が必要なのかもしれないからだ。…って、齢40の私は燗酒を口にした瞬間「うおおおっ!ぬぬうっ!」って驚いちゃいましたけどね。

神亀酒造株式会社 ひこ孫 純米
都道府県:埼玉県
原料米:山田錦
精米歩合:55%
日本酒度:+6 酸度:1.6
アルコール度数:15.0~16.0
使用酵母:協会9号

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出羽桜酒造 出羽桜 大吟醸酒 本生

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以前呑んだ、いや今に至るまでたびたび呑んでいる出羽桜の缶入り吟醸酒の鮮烈な香りを想像していたけれど、予想に反して香り・味わいとも極めてまろやかなものだった。「一切火入れせず」の本生で、これほどまで穏やかな酒質であることに驚く。

岐阜の平瀬酒造 久寿玉・大吟醸にとてもよく似て、吟醸香や米の甘みやコクといったものが渾然一体となり喉を滑り降り、そのまま口中から整然と引いてゆくのだ。精緻な細工を施した和菓子を噛み砕いてしまった後のような、はかなさのみを残して。

出羽桜酒造 出羽桜 大吟醸酒 本生
都道府県:山形県
原料米:山田錦 精米歩合:48%
日本酒度:+6 酸度:1.2
アルコール度数:15.7度 酵母:小川酵母

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福光屋 加賀鳶 純米大吟醸・藍

いい年こいた大人でさえ白い壁ごしに思わず透かしてしまう、そんな鮮やかさをもったボトルの色である。

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加えて純米大吟醸でもあることだし、さぞや淡麗な液体が流れ出てくるのだろう、との予断はみごと裏切られ、中身は芳醇な山吹色であった。色づく水面にぐい、と唇を押しつければ、若いメロンの芳香がすっと駆け抜ける。同じ蔵の純米吟醸以上に酸は少なめで、ちろちろ、と輝かしい旨みが舌をくすぐり、喉越しも爽やか。これは正直言って、量をつい過ごしてしまう酒だ。

この酒質にしてこの値段。大手蔵の実力とは、かくも恐るべきものなのか。

福光屋 加賀鳶 純米大吟醸・藍
都道府県:石川県
原料米:山田錦 100%(兵庫県多可郡中区産)
精米歩合:50%
日本酒度:+4.0 酸度:1.4
アルコール度数:16.0
酵母:自社酵母

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神亀酒造株式会社 ひこ孫 純米吟醸

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この酒が「日本酒」というものに対して示している解釈は、かなり独特。ジャズに例えればジョン・コルトレーンの立ち位置、とでもいえばいいか。

琥珀色の液体を口に含むと、黒糖を思わせる落ちついた香りが口中の低いところへぐぐっ、と沈みこむ。

この段階で、飲む前にラベルを読んでいた私は「おお、これが5年の熟成(私が購入したのは2004BY)というものか…」と悦に入っていたのだけれど。

飲み込んだ次の瞬間口中に広がったのは、なんと青竹のような、若々しい涼やかな余韻なのであった。で、その余韻は舌の中心部に、まるで米粒のような形に立体的に収斂してゆくのだった。

円熟味漂う導入部、しかしフィニッシュはあくまで若々しく。この意外性だけでも充分に楽しい酒なのだが、温度を変えて呑んでみると、舌の中心部に残る余韻の表情に差があらわれ、さらに楽しめる。熱燗~ぬる燗では、鈍く輝く球形に。常温~冷やでは白い米粒の形に、余韻が奥行きをもって収斂してゆく。燗が美味い酒の代名詞になっているけれども、つまみ無しで呑む私の好みは常温~軽く冷やしたあたり。あ、そういや私の呑んだのは7号酵母.verだったけど、この酒には9号酵母.verもあるのだったっけ。次の機会には2本買って、温度の違いと酵母の違いが味わいに及ぼす影響を調べなくちゃなあ。ええと、熱燗ぬる燗常温に冷や、を2種類づつ呑めばいいんだよなあ(指折り)。うわ、肝臓の休まる暇がないなあ(嬉しそうに

神亀酒造株式会社 ひこ孫 純米吟醸
都道府県:埼玉県
原料米:山田錦
精米歩合:50%
日本酒度:+4 酸度:1.4
アルコール度数:16.0~16.9
使用酵母:協会7号

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月桂冠株式会社 プレミアム月桂冠2種

1年に20回ほど地方出張に出かける。仕事を終えた夜、繁華街の片隅にひっそり佇む居酒屋の暖簾をくぐり、その土地のうまいものを地酒で流し込んで「嗚呼」と声にならない呻きをあげる…という幸せな出張もないわけではない。しかしその一方で、夜の9時10時まで仕事をし、ホテルまでの帰り道に見かけた食事処で夕飯を慌しくかきこむと、寝酒を買い込み、部屋に戻り深夜2時3時までノートPCに向かう…という出張だってあるのだ。

後者の場合、時間が時間なので寝酒を買い込むのはコンビニである。そのため、コンビニで購入可能な日本酒で好みのものを見つけておきたい、との願いをずっと抱いていた。で、先日の名古屋出張の折、このところ気になっていた「プレミアム月桂冠」をサンクスで見つけ、購入した。

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【写真右 雄町純米大吟醸】
含み香に、ふわっとした穀物の香り。続いて舌先に生酒風の甘み・酸味の詰まった感じがあらわれる。後口は甘み、酸味が引いていくのにあわせて苦味が顔を出す。

【写真左 山田錦大吟醸】
上立ち香としてはそう強く感じないのだが、含み香でぶわっと吟醸香がひろがる。舌の脇に甘みを残して胃の腑に流れ落ちると、後口として甘みの余韻のなかから強い辛味が立ちのぼる。

どちらも、たしかに美味い。山田錦大吟醸なんて精米歩合35%ですよ、こんなに高い精米歩合の酒は初めて呑みました。けれどどこかで「味わいにもうひと押し欲しいなあ」と感じたのも確か。…というより、深夜まで苦吟しながら仕事をしたあとにぐいっ、とやる酒にしては上品すぎる印象があった。いまのところ出張時のコンビニ酒で最も好みなのは、リニューアル前の菊正宗ピン180mLパックです。

月桂冠株式会社 プレミアム月桂冠
都道府県:京都府

【雄町純米大吟醸】
原料米:雄町
精米歩合:45%
日本酒度:-4.5 酸度:1.3
アルコール度数:15.0~16.0

【山田錦大吟醸】
原料米:山田錦
精米歩合:麹米45%・掛米55%
日本酒度:+1.0 酸度:1.5
アルコール度数:15.0~16.0

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株式会社佐浦 純米吟醸 浦霞禅

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日本酒をあれこれ買い求め呑み比べる私の心の奥底には「ああ…これこそ求めていた味だ!もうこれ以外の酒を呑むことはないだろう」的に、究極の一本と巡り会えるのではないか、との期待がある。

ところでこうした期待を、異性に対して抱く時期ってありますよね。「貴女こそが理想の女性です!」って思える女性がどこかにいて、彼女と巡り会ってはじめて自分は結婚するんだ、と考える時期。

ここで唐突に、内田樹のブログから結婚について書かれた一説を引用します。

「異性が10人いたらそのうちの3人とは『結婚できそう』と思える」のが成人の条件であり、「10人いたら5人とはオッケー」というのが「成熟した大人」であり、「10人いたら、7人はいけます」というのが「達人」である。Someday my prince will come というようなお題目を唱えているうちは子どもである。
つねづね申し上げているように、子どもをほんとうに生き延びさせたいと望むなら、親たちは次の三つの能力を優先的に涵養させなければならない。

何でも食える
どこでも寝られる
だれとでも友だちになれる

最後の「誰とでも友だちになれる」は「誰とでも結婚できる」とほぼ同義と解釈していただいてよい。こういうと「ばかばかしい」と笑う人がいる。それは短見というものである。
よく考えて欲しい。
どこの世界に「何でも食える」人間がいるものか。
世界は「食えないもの」で満ち満ちているのである。
「何でも食える」人間というのは「食えるもの」と「食えないもの」を直感で瞬時に判定できる人間のことである。
「どこでも寝られる」はずがない。
世界は「危険」で満ち満ちているのである。
「どこでも寝られる」人間とは、「そこでは緊張を緩めても大丈夫な空間」と「緊張を要する空間」を直感的にみきわめられる人間のことである。
同じように、「誰とでも友だちになれる」はずがない。
邪悪な人間、愚鈍な人間、人の生きる意欲を殺ぐ人間たちに
私たちは取り囲まれているからである。
「誰とでも友だちになれる」人間とは、そのような「私が生き延びる可能性を減殺しかねない人間」を一瞥しただけで検知できて、回避できる人間のことである。

「誰とでも結婚できる」人間もそれと同じである。
誰とでも結婚できるはずがないではないか。
「自分が生き延び、その心身の潜在可能性を開花させるチャンスを積み増ししてくれそうな人間」とそうではない人間を直感的にみきわめる力がなくては、「10人中3人」というようなリスキーなことは言えない。
そして、それはまったく同じ条件を相手からも求められているということを意味している。
「この人は私が生き延び、ポテンシャルを開花することを支援する人か妨害する人か?」を向こうは向こうでスクリーニングしているのである。
どちらも「直感的に」、「可能性」について考量しているのである。
だから、今ここでその判断の正しさは証明しようがない。
それぞれの判断の「正しさ」はこれから構築してゆくのである。
自分がその相手を選んだことによって、潜在可能性を豊かに開花させ、幸福な人生を送ったという事実によって「自分の判断の正しさ」を事後的に証明するのである。
配偶者を選ぶとき、それが「正しい選択である」ことを今ここで証明してみせろと言われて答えられる人はどこにもいない。
それが「正しい選択」であったことは自分が現に幸福になることによってこれから証明するのである。

内田樹の研究室「学院標語と結婚の条件」(2009年4月9日)より

なぜ日本酒がタイトルの記事にこんな引用をするかというと、浦霞禅をおよそ10年ぶりに呑んだ瞬間「運命の人云々考えてもしかたないですよ?たとえばこの酒を『晩酌の友』とずーーーっと決めてしまって、その日本酒道的正しさを事後的に証明する、って人生も”あり”でしょ?」と耳元で囁かれてしまったからなのである。

上立ち香、含み香とも涼やかなミネラルの味わいを核に決して尖らず、果実様(あえて言うならメロン)の香りを口中に残しながら胃の府におさまったしばらくあと、じわ、と遅れて優しい酔いがやってくる仕掛け。文句なく美味い。多くのデパ地下で見かける買い求めやすさだって大きな魅力だ。

ああ…でも私は、この酒とともに心中する覚悟を決められなかった甲斐性なしです。もうすこしだけ、他の酒を見てみたい…今はただただ、そんな気持ちなのです・・(何の話だよ

株式会社佐浦 純米吟醸 浦霞禅
都道府県:宮城県
原料米:トヨニシキ、山田錦
精米歩合:50%
日本酒度:+2.0 酸度:1.4
アルコール度数:15.0~16.0
酵母:浦霞酵母

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福光屋 黒帯 堂々

Dodo

常温~ぬる燗まで試したが、いずれの温度帯でも山廃特有の尖らず落ち着いた含み香を感じた次の瞬間、厚みのある酸味が舌をさああっと撫でてゆき、後口はしつこく残らず、すっと切れる点で共通していた。少々のことでは崩れない酒である。

それにしても味の諧調、というか味わいのリズムがあまりに整っていて驚く。同じ山廃でも天狗舞・純米酒のリズムが「グワーンドーンドドドーーン」と民族音楽に例えられるのに対して、黒帯のそれはミニマル・ミュージックのように「ツッツッツッツッタッタッタッタッ」と例えられよう(ホントかよ)。

その整いっぷりの原因は、酒米に山田錦と金紋錦を使用し、それぞれのお米で仕込んだお酒を絶妙な割合でブレンドしていることに求められるような気がする。

福光屋 黒帯 堂々
都道府県:石川県
原料米:山田錦(兵庫県中区産)60%
     金紋錦(長野県木島平村産)40%
精米歩合:60%
日本酒度:+5.1 酸度:1.64
アルコール度数:15.0
酵母:自社酵母

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竹鶴酒造 竹鶴 純米にごり酒

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私自身は朝食を食べないけれど、1歳8ヵ月になる息子に朝食を食べさせるのが日課となっている。息子が毎日食べているのは、コーンフレークと果物の上からプレーンヨーグルトをかけたものだ。コーンフレークとヨーグルトのいずれにも砂糖は入っておらず、息子の口元からぽろぽろとこぼれたフレーク部分を拾って食べてみると、乳酸菌に由来する腰の据わった酸味がどっと押し寄せ、酸味の引き際に穀物の香ばしさが顔をのぞかせる。

竹鶴のにごりを飲んでまず思い出したのは、この味。ということで開栓初日、あまりにも素っ気ない酸味に驚く。

竹鶴は開栓後常温放置してこそ真の価値を発揮する、ってのをどこかで読んだ覚えがあったので、そうしてみた。すると、一週間ごとに甘み旨みが少しずつ乗ってくるではないか。その様を顔文字で表すと、こうなる。

開栓初日 → ( ̄- ̄)

開栓一週間後 → ( ̄ー ̄)

開栓二週間後 → ( ̄ー+ ̄)

ほんとはもっと先まで味わいの変化を見守りたかったのだが、二週間後に我慢できず飲み干してしまった。「燗がおすすめ」との声が多い酒であるけれど、温度上昇にともなう味わいの変化よりも時間経過にともなう味わいの変化のほうがより大きい印象で、私の場合は常温がいちばん好ましかった。

ところで全く関係のない話だけど、私はまっさらのジーンズを履いて履いて履きまくって色落ちさせていくのが大好きなので、もしかすると竹鶴のような「育てるタイプ」の酒とは相性が良いのかもしれない。

とはいえ、ジーンズのように10年以上履き続ける、ってのをこの酒でやってみたい気もするけど、常温で10年放置はいくらなんでも危険だよね。

竹鶴酒造 竹鶴 純米にごり酒
都道府県:広島県
原料米:八反錦・一般米
精米歩合:65%
日本酒度:+8.0 酸度:1.8
アルコール度数:16.5
酵母:協会601号

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新政酒造 秋田旨口 本醸造

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打合せで赴いた都内某所。その帰り道、駅前の酒屋に日本酒名の幟が数本立っているのを発見して立ち寄ってみた。特に日本酒に特化した品揃えではなかったけれど、日本酒はすべて冷蔵保存されており、なかでもこの酒が目を引いた。

新政酒造は協会6号酵母の採取された蔵として有名。日本酒勉強中の身にとっておさえておくべき銘柄であることは間違いないし、そういや6号酵母の酒って呑んだことないなあ…とラベルを見ると、使用酵母が書いてない。あとでネットで調べりゃいいか、と購入してみた。

帰宅後に新政のHPを覗いてみたところ、現行品の本醸造とはラベルが違った。あれ?もしや…といま一度ラベルを確認したところ2006BY(注:醸造年度)と判明。おお、旧作か!で、肝心の酵母。新政酒造の酒について調べてみると、現行品の本醸造には使用酵母が明記されておらず、その他の酒においてはこまち酵母と6号酵母の2種類が使い分けられていることがわかった。うーん、ここはひとつ6号酵母を呑んでいるのだ俺は、と言い聞かせることにしよう。

さて、味。

アルコールの辛さがまずぐっ、ときて、その辛さはすぐさま舌先からさばけてゆく。その過程において、ほのかな甘さを湛えた丸い球状の物体に口中をさっとひと撫でされる印象があった。その甘みのタッチは、6号酵母の特徴によく登場する「穏やか」なる形容が当てはま…おっと、6号酵母と決まったわけじゃなかったんだった。

ただ残念なことに、開栓2日目以降はアルコール成分が浮いて感じられる印象で、味のバランスが崩れてしまった。いくら冷蔵保存されていたとはいえ、「古酒」を売りにするわけでもないカテゴリでかつ醸造年度の旧い酒の旬は、あまりにも短かった。

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福光屋 加賀鳶 純米吟醸 あらばしり

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あらばしりとは、もろみを布袋に詰めて重ね、その自重でほとばしってきた酒をさす。火入れせず濾過もほどほど、やや濁りを含むその液体には、どこかセクシャルな雰囲気が漂っている。

同じ銘柄で火入れを行ったほう に比べ、甘み酸味、そして後口のほのかな苦味がより立っている印象がある。特に、口に含んだ瞬間の甘み酸味の押し寄せ方はチョコレートを思わせる。…ということで、ナイトキャップとしてのみこの酒を飲んだ私は、就寝前にホットチョコレートを口にするというスペイン人の気持ちが少しだけわかった気がした(んなわけない)。

福光屋 加賀鳶 純米吟醸 あらばしり
都道府県:石川県
原料米:山田錦60%(兵庫県多可郡中区産)、金紋錦40%(長野県下高井郡木島平産)
精米歩合:55%
日本酒度:+4.0 酸度:1.4
アルコール度数:16.8
酵母:自社酵母

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墨廼江酒造 墨廼江 特別純米

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上立ち香は穏やかな米の香り。口に含んだ瞬間、舌の中ほどをきゅっ、と締める生酒様の味わいがある。このあたりが食中酒として計算されているところなのだろうなあ…と、ナイトキャップ派の私は想像するのであった。

上でいう生酒様の味わいをもう少しほぐしてみたかったので、常温一合にクラッシュアイスをひとつかみ入れて呑んでみると、ちょうどの按配。

ちなみに燗をつけると、味わいのコントラストがよりくっきりする方向に変化する。

墨廼江酒造 墨廼江 特別純米
都道府県:宮城県
原料米:五百万石
精米歩合:60%
日本酒度:+4.0 酸度:1.5
アルコール度数:15.0~16.0
使用酵母 宮城酵母

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福光屋 加賀鳶 純米吟醸

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猪口に鼻を近づけ揺すってみると、涼やかで幽かな吟醸香が立ちのぼる。口に含んだ瞬間、鼻腔に優しい吟醸香が押し寄せ、同時に甘さと酸っぱさが混然一体となった味わい(割合は甘さ9:酸っぱさ1)が上あごのあたりをしっとりと濡らし、すっと胃の腑へ落ちてゆく。そのあと一拍もおかないタイミングで舌先をぴりりと辛さが襲い、味の記憶は根こそぎさらわれてしまうのだった。

味わいから受ける印象は淡麗辛口なのだが、それでいて外見がうっすらと黄金色であるところが心憎い。この酒でいう「淡麗」とは、炭素濾過を用いた見せかけのものではない、ということだ。

いやあしかし、導入部からエンディングまで一気に読ませる、上質なミステリー小説のような酒だ。それも長編ではなく短編小説なので「あと一編読んで、寝よう」「…いや、もう一遍読んだら…」的な深みにハマらないよう注意する必要はあるかもしれない。

福光屋 加賀鳶 純米吟醸
都道府県:石川県
原料米:山田錦(兵庫県多可郡中区産)、金紋錦(長野県下高井郡木島平産)
精米歩合:55%
日本酒度:+4.0 酸度:1.4
アルコール度数:16.0
酵母:自社酵母

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三井の寿 井上合名会社 山廃純米穀良都

大正~昭和初期にかけて筑後地方の酒造りに使用されていた酒米「穀良都」。栽培の難しさから戦後は栽培が途絶え、幻の酒米となっていた。しかし平成八年、九州大農学部より穀良都の種籾12粒を譲り受けた醸造元は、四年の歳月をかけて一仕込み分の収穫を得ることに成功した。その穀良都を用い、当時の技術に忠実に復刻醸造されたのが、この酒である。

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某雑誌に「燗に向く酒」として取り上げられているところ、まずは常温から味わってみる。くすんだ印象の微かな香ばしさと、米の落ち着いた味わいを感じる。さて、次は燗で…と台所に立つ。

あれ?気のせいか軽く酔ってないか俺。おいおい、まだ半合しか呑んでないのに。

…不思議に思いつつ、続いて上燗の熱々を口に運ぶ。ぷはーっ、甘みのあと酸がどわっときて米の味が加わり、それらがいっぺんにどぉーーんと暴れる暴れる。燗を一合ほど呑んだところでよい気持ちに。他の酒より酔うのが明らかに速いぞ。そうか、アルコール度数高いんだきっと…とラベルを確認すると「15度以上16度未満」。うーん、もっとあるように感じるけれどなあ。たぶん、古米を3割しか削っていない→酒中に含まれる諸々成分が多い→酔い中枢にHit!ってことなのかもしれない。

で、つまみ無しで日本酒を呑む私の意見。この酒の燗は、味が強すぎるように思える。そこで、一合入りの利き猪口に8分目ほど注いだところへ、細かめの氷をざっくり一掴み投入して呑んでみた。

う、う、美味い!!!!!!

味の基調は、ほのかな甘み。燗で爆発した味の多さは氷の向こうにたゆたうだけで、決してこちら側にやってこず、強い米の香りを残して胃の腑に落ちてゆく。邪道なのは承知のうえで、私にとっては夏向きの酒、と言い切ってしまおう。今年の夏は山廃オン・ザ・ロック。

三井の寿 井上合名会社 山廃純米穀良都
都道府県:福岡県
原料米:穀良都100%
精米歩合:70%
日本酒度:+1.0 酸度:1.7
アルコール度数:15.0~16.0
酵母:自社酵母(7号系)

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大七酒造 純米生もと CLASSIC

同じ大七の”CLASSIC”の付かない純米生もと(以下、無印)より熟成期間が1年長い商品。

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無印もじゅうぶん落ち着いた風味の酒だったけど、CLASSICに比べればまだ「つん」としたところがあるように思えてしまう。

そう、まるで刺激とは無縁で、炊き上がりを知らせる炊飯器から むっ と立ちのぼる米の香り、ほのかな甘さが基調の旨み、それらがすうっと優しく舌の上を滑ってゆく。純米酒としての折り目正しさは抜群だ。

「酒を呑んでいる」ことを意識させない酒なので、何か考えごとをしながら盃を傾けるにはうってつけ。さあ、深遠なる思索に今日も耽るぞ!…っていっても、考えるのは「次はどんな酒買おうかな」ってことくらいなんですけれどね。

大七酒造 純米生もと CLASSIC
都道府県:福島県
原料米:五百万石
精米歩合:扁平精米
日本酒度:+3.0 酸度:1.6
アルコール度数:15.0~16.0
酵母:協会7号

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磯自慢酒造 磯自慢 生原酒 純米吟醸中取り

綺麗な、ひたすらに綺麗な酒。柔らかな吟醸香が鼻腔をくすぐり、端麗な輝きをもつ液体は舌先から胃の腑まで味わいがぶれることなくすうっと収まり、後口に幽かなミネラル香が甘みをともない広がってゆく。

盃を重ねつつ、ああこれは太田和彦の著作に登場する擬音「ツィー」を地で行く酒だ、と思った。ツィー。

あまりの優等生ぶりに「面白味のないやつめ」などと憎まれ口のひとつも叩きたくなるくらいで、せめて写真ぐらいは、と斜に構えてみる。

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磯自慢酒造 磯自慢 生原酒 純米吟醸中取り
都道府県:静岡県
原料米:特A地区東条産特等米山田錦
精米歩合:麹50% 掛米55%
日本酒度:+4.0 酸度:1.3
アルコール度数:16.1

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村祐酒造 村祐 茜ラベル 特別純米 無濾過本生

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その日は四谷三丁目で所用を済ませたのち、地下鉄南北線の通る四ッ谷駅までの道のりをぶらぶら歩いた。四谷見附の交差点に差し掛かったとき、何か心にひっかかりを感じた。何だろう?ううう思い出せない。すわりが悪いなあ。しかたない、ひとまず冷たいお茶でも買って一服しつつ、駅のベンチで自らの内面と向かい合うか、と手近なコンビニに入ったとき、天上から解答が降ってきたのだった

四谷、といえば鈴傳があるじゃないか。

いうまでもなく、コンビニの酒売り場の前を通りすがりにピン、ときたわけですけれども。そこへ思い至れば話は早いとばかり踵を返して表へ出、携帯で場所を確認すると、既に徒歩数十秒のところにいて笑ってしまった。

はじめての酒屋に足を踏み入れる瞬間は、いつだって心地よい。じっくり冷蔵庫の中を見渡すと、ひときわ目立つ赤ラベルの酒を発見。村祐、小さい蔵でマニアックに人気のある酒だから、飲みたいなあと思いつつそのままに…というわけで、即買い。

まず、ほのかな甘味と際立った酸味が球体状にまとまり舌先をころがる。甘味は喉元ちかく、舌の根元まで届かずに、酸味を運ぶ潤滑油の役割を果たしている。あとは酸味が炸裂し、すべての味覚をさらってゆく印象だ。続いて人肌燗につけてみると、甘味の効きがよくなり、酸味の棘がややおだやかになる。たしかに独特な酒。他のラベルもぜひ呑んでみたい…。

村祐酒造 村祐 茜ラベル 特別純米 無濾過本生
都道府県:新潟県
原料米:非公開
精米歩合:非公開
日本酒度:非公開 酸度:非公開
アルコール度数:16.0~17.0 酵母:非公開

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尾崎酒造 安東水軍 大吟醸

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味わいについて記す前に言っておきたいことがある。村上水軍でも九鬼水軍でもなく、安東水軍。まあ青森の酒だからなんだろうけど、この名前、いいよなあ。

ひとつ前の記事にあるように、直近まで味わっていたのはこっくりとした燗酒。その反動もあり、名前の響きと冷で軽く楽しめる大吟醸酒カテゴリということで、見かけてすぐ購入したもの。酸に裏打ちされた軽めの吟醸香が印象的で、すっと味わいが抜けるまでの時間は短い。それはまるで東北の春を思わせるかのようであった(←酔った勢いで詩人モード)。

尾崎酒造 安東水軍 大吟醸
都道府県:青森県
原料米:五百万石
精米歩合:50%
日本酒度:+5.0 酸度:1.1
アルコール度数:15.0~16.0

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菊姫 山廃純米酒

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いままで飲んだ山廃づくりの酒のなかで、もっとも癖が強かった。

開栓してすぐ常温で呑んだとき「なんと無骨な味わいだろう」と思った。例えるなら高倉健的無骨さ、とでも言えばいいか。けれど、日をおいてぬる燗につけてみると山廃の香ばしさ、甘みについて少しわかった気にさせられた。「少しわかった」と書くのは、この酒は私にまだ心を許していない、と思えるからだ。健さんから一言二言リアクションを返してもらえるようにはなったけど、まだ気安く話せるには至らない、とでも言えばいいか。そうなるには、もっと日本酒キャリアを重ねなければならないのだろう。

それはそうと、それまで話しかけても素っ気なかった健さんにいきなり「・・どうも」なあんて言われるほうが、古川登志夫の声で「さんきゅ~☆」って言われるより心に響いてくる気がしますよね?って何の話だ何の。

菊姫合資会社 菊姫 山廃純米酒
都道府県:石川県
原料米:山田錦
精米歩合:70%
日本酒度:-3.0
アルコール度数:16.0~17.0

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鹿野酒造 常きげん 大吟醸

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口に含んだ瞬間、山廃っぽい(注:この酒は山廃造りではない)スモーキーな香りがまず飛び込んできたが、これは杜氏が「山廃の達人」であることから生まれた予断であるかもしれない。続いて、甘さを中心に”しっとり”とまとまった味わいがやってくる。

で、大吟醸であるからには「飲み干したところで後味に酸が立ち、吟醸香と相まって味蕾を”ぴぴぴっ”と刺激してくることだろう」と、この先の展開を予測した。

ところが飲み干してみると、想像していた酸の姿は見えず、さらには、大吟醸と聞いてまず想像するエッジの立った果実様の香りも感じられなかった。ただ、深い夏の闇に浮かぶ蛍の灯りにも似た「ぽわん」とした淡い甘みがすっと香り立ち、消え去るのみだった。

おおおー!そうくるかーー。と、予断を優しく裏切る肩透かし感に身を任せるうち、四合瓶はあっという間に空になってしまった。達人の技とはこういうものなのか、を実感した。

鹿野酒造 常きげん 大吟醸
都道府県:石川県
原料米:山田錦
精米歩合:40%
日本酒度:+3.0 酸度:1.3
アルコール度数:16.5

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平瀬酒造 久寿玉 大吟醸

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両親より、飛騨高山旅行のお土産としていただく。

大吟醸なので、冷でいくことにする。果実様の香り・甘さ・辛さ・コクが渾然一体となって口中にひろがる。酒が喉を降りても、果実様の香り・甘さ・辛さ・コクの足並みは整然と揃ったまま、後口を構成する。なにか、すこぶるつきの優等生をみるような印象だった。

そういえば去年、撮影の仕事で岐阜に4連泊した。私は監督する立場で、撮影終了後はカメラマンほか技術部の面々と飲み屋街を毎晩ねり歩いた。そのころは日本酒にハマっておらず、私は主にビールとグレープフルーツサワー、締めの焼肉屋でマッコリを飲んでいた記憶がある。そうした場では、日中撮影したカットについて侃々諤々やりあうわけだけれど、次同じ機会に恵まれたら「ったくさー、あんときもう少し日が照ってくれりゃ、ヒキの絵が締まったんだけどなああぁぁ。あ、すみません、同じのもう一杯」とかいうんじゃなくて、久寿玉のように優等生的な酒をゆったり舐めつつ泰然自若と構え「まあ、あのカット、よかったよね」的に大人風を装ってみたいなあ、と妄想するのだった。

平瀬酒造 久寿玉 大吟醸
都道府県:岐阜県
原料米:山田錦
精米歩合:35%
日本酒度:+1.2 酸度:1.0
アルコール度数:16.0~16.9

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車多酒造 天狗舞 山廃仕込純米酒

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自宅冷蔵庫を新調したおかげで、日本酒は購入してすぐ冷蔵庫で保存されるようになった。山廃なので、初手から冷やす手はないだろうとは思ったのだが、常温に戻す手間が惜しく、花冷えくらいの温度で開栓後の一口を味わった。

酸味と苦味がコクをともない怒涛のごとく押し寄せる。さらに、その奥に一味隠されている気配があり、ものすごく難しい味に感じた。そのあと常温、ぬる燗、熱燗まで温度を上げ味わってゆくと、山廃ならではの香味と甘みが拮抗してくる。けれど、それでも一味隠されている気配はぬぐえない。その「一味」とはおそらく、相性の良い肴と合わせたときにあらわれるものなのだろう。

独特の個性を持つ酒なので、万人向きではないように思う。でも同時に、晩酌の友を選ぶとき「この酒でなくてはならない」と感じている人が多いようにも思う。

車多酒造 天狗舞 山廃仕込純米酒
都道府県:石川県
原料米:五百万石
精米歩合:麹米60%
日本酒度:+3.0 酸度:1.8
アルコール度数:15.0~16.0

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熊本県酒造研究所 純米吟醸 香露

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数多くの優れた吟醸酒が採用する協会9号酵母、その生みの親である蔵元の醸す酒。聖地を訪れる巡礼者の心持ちで、背筋を伸ばし味わった。

いつものようにナイトキャップとして盃を口に運んだが、瑞々しく広がる葡萄様の香りにはじまり、ほのかな苦味とさばけのよい酸味で締めくくられる展開は、正直ややそっけなく感じた。

けれど、翌日に食中酒として味わった瞬間、相貌は一変した。刺身でも揚げ物でも、なんらかの味が口中を満たしているところへ香露をひとくち注げば、尖った先が舌と食物の触れ合う層に切れ味鋭く突っ込んできて、先行する味を根こそぎかっさらい、丸みを帯びた喉越しで抱擁しながら臓腑へと落ちてゆくのだった。流体抵抗を考えつくした形状、流線型の味わいとでもいうべき快感だった。

熊本県酒造研究所 純米吟醸 香露
都道府県:熊本県
原料米:山田錦
精米歩合:麹米45%・掛米55%
日本酒度:+1.0 酸度:1.5
アルコール度数:16.1 酵母:協会9号(熊本酵母)

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須藤本家 郷乃誉 極甘口-36 純米吟醸生原酒

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須藤本家は、現存する中で日本最古の蔵元である。その歴史は源氏VS平氏の壇ノ浦の戦いに先立つこと40年あまり、1141年に始まったとされる。

この酒は日本酒度「-36」の表記に惹かれて購入、きりりと冷やして飲んでみた。ひとくち含んだ瞬間、しっかりとした酸味に裏打ちされた甘みが口中を満たし、続いて原酒ならではの、喉の浅いところに引っかかる旨みがあらわれる。

いつもの通りナイトキャップとしてこの酒を飲んでいると、晩飯をしっかり食べていたにもかかわらず空腹を覚えてしまった。もしかすると食前酒として最適だったのかもしれないが、試す間もなく一瓶空いてしまった。

須藤本家 郷乃誉 極甘口-36 純米吟醸生原酒 
都道府県:茨城県
原料米:山田穂
精米歩合:60%
日本酒度:-36 アルコール度数:15.0~16.0

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三浦酒造 普通酒 ん

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吟醸酒の味わいを一般化して表現するなら、まず果実のような吟醸香がすっと鼻へ抜けてゆき、続いて水の味と甘味または辛味が舌先に広がったのち、余韻を残し消えてゆく・・となるだろう。

かような味わいのストーリーを仮に「映画の本編」と例えれば、普通酒「ん」のそれはまさに「映画の優れた予告編」そのものだ。1カット1カットの映像は短く物足りないけれど、魅力的な編集リズムにノせられてタイトルコールの瞬間手に汗を握ってしまうように、「ん」を口にするやいなや吟醸香や水の味や甘みといった味の要素がパンパンパーーンと立て続けに短い波で押し寄せてきて、リズムにノせられすいすいと杯を重ねてしまう。

趣味の世界において物の値段に言及する無粋さを重々承知したうえであえて書くなら、一升で\2,000を切る価格がまず信じがたい。もうひとつ小声で付け加えておくけれど、本編以上に面白い映画の予告編が存在しているように、予告編の魅力を超えられない本編もまた存在する、ということも記しておきたい。

三浦酒造 普通酒 ん
都道府県:青森県
原料米:華吹雪、むつほまれ
精米歩合:60%、65%
日本酒度:+4 酸度:1.5
アルコール度数:15.0~15.5 酵母:K901

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松浦酒造 純米吟醸 加美屋直蔵

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同じ蔵の酒「鳴門鯛」が美味かったので、別銘柄を試してみたところ、こちらも好みど真ん中。

味わいは、まず含み香の甘さからはじまる。続いて喉ごしに「ぴっ」と幽かな辛さが現れ、後味でそいつがぶわと広がったのち、冒頭の甘さがふたたび顔を出すと口腔内をゆっくりと覆い、余韻を形づくる。

ラベルに「摂氏四十度~五十度にしてお飲みいただいても結構です」とあるが、私は雪冷え(5℃)~花冷え(10℃)の温度が好み。豊かな甘み辛味が低温ゆえに小ぢんまりとまとまって舌先に押し寄せるさまは、Olivo Barbieriもしくは本城直季の写真から受ける印象と似ている(どんな例えだどんな)。

松浦酒造 純米吟醸 加美屋直蔵
都道府県:徳島県
原料米:徳島県阿波町産米・山田錦
精米歩合:60%
日本酒度:+3.5 酸度:1.5
アルコール度数:15.0~16.0 酵母:-

-ラベルより

 この山田錦は、阿波町農協・営農指導員『武澤寛』氏の指導により心から農業を愛する人々の手で契約栽培により作られた最良の酒造好適米、阿波山田錦を使った純米吟醸酒です。この米を原料に杜氏は伝承の技と真心を込めて醸しました。その味は米の旨味が最大限に生かされた絶品で、まろやかな風味、キレの良さ、豊かな香り等すべてにご満足いただける清酒の逸品です。
 摂氏四十度~五十度にしてお飲みいただいても結構です。本品の旨さを存分に味わってください。

■題字、松浦直蔵由往の由来
 大麻町に在住する松浦一族は、長崎県平戸市より徳島に来て住みついて以来四百五十年になる。当家の松浦直蔵由往が酒造業として創業したのが、この蔵の始まりであり、本品の命名の由来でもあります。加美屋は屋号(紙屋と書いた文書もある。)


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六花酒造 本醸造原酒 蔵子

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六花酒造 本醸造 蔵子
都道府県:青森県
原料米:むつほまれ
精米歩合:65%
日本酒度:-2.0 酸度:1.7
アルコール度数:18.0~19.0 酵母:-

含んだ瞬間、ミネラルウォーターを飲んだときの甘さに近い感覚が舌先に伝わってくる。喉ごしもまた、まろやかに甘い。日本酒度-2.0は伊達ではなかった。

不思議なのは、割り水なしの原酒のため高アルコール度数(18~19度)であるはずなのに、飲み口と酔いのまわりがさらりとしていること。蔵元HPの商品紹介で「女性の方々からも厚い支持を頂いております」とあるのはこのせいか。

しかし同じ青森の酒で、サンガ山河酸がやってきた!の白神と原料米(むつほまれ)&精米歩合(65%)まで同じであっても、こうも味わいが違うところが日本酒の不思議であり、奥深さであり、おもしろいところでもあるのだ。

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白神酒造 白神 山廃純米酒 無炭素無濾過

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はじめ山廃の、燻されたまろやかさを感じ・・たかと思うやいなや、モーゼの十戒のごとく香りがまっぷたつに割れてざざざああっと向こうから何かがやってきた!あれは何だ?酸だ!酸がやってきた!常温で円錐形、燗でようやくチビた2Bの鉛筆、というくらい舌に尖って刺さる酸が!

この味は、冬、濃い口の料理を肴にきゅーっ、と燗でやることが前提になっている。囲炉裏端で、冷えた身体が温まるんだろうなあきっと。うう、寒いと思ったらクーラー効き過ぎ。

私なら、合わせてみたい料理の一は田楽(こんにゃくでも芋でも)。

白神酒造 白神 山廃純米酒 無炭素無濾過
都道府県:青森県
原料米:むつほまれ
精米歩合:65%
日本酒度:+3.0 酸度:1.5
アルコール度数:15.0~16.0 酵母:-

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菊水酒造 薫香ふなぐち菊水一番しぼり

菊水酒造「ふなぐち菊水一しぼり」という酒がある。

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コンビニでもスーパーでもどこでも買える缶入り本醸造酒だが、その実力はなかなか侮れない。エキス分が濃厚な旨口で、含み香に独特の個性がある。ものすごく私的な例えをもって、含み香の個性をあらわしてみよう。

「小さいころ、香料入りのヤマト糊を口いっぱいに含んでみたい衝動に駆られ続けた私を満足させる含み香」

どうだろう、芳醇で、口中がきゅっと引き締る感じが伝わっただろうか(んなわけない)。それはそうと、今年は「ふなぐち菊水一しぼり」の発売35周年とのことで、記念プレゼントキャンペーンを行っている。
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写真の下のほうに写る「特別に醸したプレミアムふなぐち200ml缶」が欲しくてたまらず、ここふた月ほど応募に必要な「ふなぐち菊水一しぼり」の蓋をしこしこ集めていた…のだけれど。先日、新宿は小田急百貨店の酒売り場を冷やかしていたところ

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何だよ、売ってるじゃねえか!キャンペーンのプレゼントでしか入手不可能なのかと思ったよ!ということで、さっそく購入して飲む。ううむ…要は添加するアルコールが適当なもの(例:廃糖蜜由来)ではなく、氏素性の正しい「菊水の酒粕焼酎」である点に特徴があるのだろうが、私には大きな差は感じられなかった。強いていえば、黒ラベル(薫香)のほうが金ラベル(ふなぐち一番しぼり)よりも味の余韻が長い、くらいのことは言えそうではあるが。

菊水酒造 薫香ふなぐち菊水一番しぼり
都道府県:新潟県
原料米:-
精米歩合:70%
日本酒度:- 酸度:-
アルコール度数:19.0 酵母:-

(蓋の裏にある商品説明より)

香り立つ「薫香ふなぐち」

菊水酒造では、清酒をつくる工程でできる「酒粕」を蒸留して、「酒粕焼酎」を製造しています。菊水の酒粕焼酎の特徴は、穏やかに蒸留させる「減圧蒸留」を行うことにより際立たせた、フルーティな香りです。本品「薫香ふなぐち」の香りの高さの秘密は、通常の「ふなぐち」に加えた、この酒粕焼酎に由来しています。従来のふなぐちにはなかった、深みのある華やかな香りをじっくりとお楽しみください。

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八海醸造 本醸造 八海山

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盃から立ち昇る香りは穏やか。舌触り、含み香、喉ごしは瑞々しく柔らかい。味の骨格が、水の良さにより形作られているのがわかる。

外飲みの折、この酒がメニューにあれば必ず1杯目に注文する。あらゆる肴とよく合い、後味がすっきりしているから2杯目にどんな酒をもってこようと邪魔をしない。

この銘柄を「日本酒マイベスト3」に選ぶかといえば躊躇するけれど、「マイベスト10」になら迷いなくセレクトする。「本醸造」カテゴリならTOPを独走中。

うー。旨いなあ。

八海醸造 本醸造 八海山
都道府県:新潟県
原料米:五百万石(麹米・掛米)、トドロキワセ 他(掛米)
精米歩合:55%
日本酒度:+5.0 酸度:1.2
アルコール度数:15.4 酵母:協会7号

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朝日酒造 特別純米酒 久保田 紅寿

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先日、孫の顔を見に上京してきた私の父が「退職祝いに貰ったものだよ」と置いていった酒。深夜、ありがたくいただこうと栓を開けながら、そういや親父が退職したのは3年前だったことに思い至り、私は年甲斐もなくどきどきしてしまった。3年もの間常温放置されていた酒に恐れをなしたのではない。むしろその逆で、味わいがどんな変化をみせているかに興味津々、猪口に注いだ瞬間の発色に心拍数は最高潮に達したのであった。

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まず鼻を近づけてみる。劣化した日本酒が放つとされる「老ね香(ひねか)」をまだ嗅いだことがない私ではあるが、饐えた匂いはしない。いや、むしろ幽かな芳香を感じるぞ。

常温での一杯を、迷いなく口に含む。

やや酸の立つ、たおやかな味わい。色からくる先入観で後味のべたつきを警戒してしまうが、舌からも喉からもすっとさばけてゆく。この味が熟成と呼べるものなのかどうかは、発売直後の紅寿を飲んで比べてみないとなあ、と思いながら杯を重ねるうち、奇妙なことに気づいた。

酔いのやってくるのが、明らかに遅い。アルコールが揮発している感じはなかったのに、心拍数がじわじわと上がり、顔が火照ってくるいつもの酔いが到来したその時点で、ふだんの酒量より1合余分に飲んでいた。これは外で呑んだら危ないタイプの酒だなあ。

朝日酒造 特別純米酒 久保田 紅寿
都道府県:新潟県
原料米:五百万石 精米歩合:55%
日本酒度:+2 酸度:1.1
アルコール度数:15.0~16.0度 酵母:-

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河合酒造 本醸造 出世男

古い街並みが好きなら、奈良県橿原市今井町なる地名に聞き覚えはないだろうか。近隣を出張で訪れた帰り道、つげ義春の描きそうな通りをふらついてみた。

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時は5月。正直に言って、街の醸しだす風情とは相容れない季節だった。次に訪れるなら、噴き出す汗をぬぐわずにいられない8月の日中か、盆地ならではの寒風吹きすさぶ2月の夕暮れを選びたい。それはともかく、日本酒好きとしては国の重要文化財かつ酒造業を営む河合酒造をおとなわねばなるまい。

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軒先をくぐった瞬間すっ、と視界が暗くなるあたりは旧家の貫禄である。床から天井までぐるっと視界を巡らせただけで酒瓶のディスプレイを眺めはじめた私に「試飲はいかがですか?」とすぐさま声がかかる。「ありがとうございます、では」と即答するはしたなさは十分承知しながらも、舌先にはすでに蔵元お勧めの「出世男 純米 無濾過生原酒」が滑り落ちている始末であった。米の香りは濃厚かつ後味涼やか。しかしその日の気分は、次に口に含んだ「本醸造 出世男」のほうだった。

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衒いのない、どす、と音が聞えるかのような重量級の呑みごたえがあり、次にずん、とアルコールの辛口感が伝わって、仕舞いにはむうんと乾いた後味が口腔に残る。これは地元の人々の酒だ、と思った。誰にだって地元の味というのはある。子どものころ遊びの帰りにかぶりついた肉屋のメンチカツ、天ぷら屋の芋天、駄菓子屋の焼きそばやおでん。出世男は、そうしたものと同じ地平にある。夕餉の買い物ついでに立ち寄る、近所の酒屋さんが醸す酒なのだ。

河合酒造 本醸造 出世男
都道府県:奈良県
原料米:- 精米歩合:70%
日本酒度:- 酸度:-
アルコール度数:18.0~19.0度 酵母:-

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松浦酒造 鳴門鯛 純米吟醸原酒

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(ラベルより)
純米吟醸酒”鳴門鯛”は酒造好適米を半分になる迄磨いて仕込まれている量産不可能な手作りによる”酒の芸術品”です。杜氏を始め蔵人達の酒を愛する執念がこもったお酒です。
通常は市販されていませんが、酒通の方々の強いご希望により数量はごく僅かしかございませんが限定品として発売させて頂きます。心ゆく迄酒の芸術による味・香りをお楽しみください。

出張で赴いた徳島で購入。山廃造りの酒は初体験である。常温でひとくち啜ると、多くの味覚の詰まっていそうな予感に襲われたのち、香ばしさと甘みとわずかな渋みがすっと伝わってきた。山卸を廃さない大七・純米生もとの味と通底する味わいがある。なるほど、これが生もとの癖というものか。

含み香は、ほっこりした焼き栗のよう。焼き栗だから甘い後味で終わるかと思いきや、やわらかな苦味を残して喉へと落ちていった。最後まで酸味の見あたらないところは潔い。

ぬる燗が出色。口当たりはどこまでも香ばしく甘いのだけれど、最後は舌の奥の中心に苦味を収斂させ、飲み干したあとも涼やかな余韻が残る。今週も徳島出張があり、次は別の酒を買って帰ろうと思っていたけど、こいつをいま一度買って帰るのもいいなあ・・。

松浦酒造 純米吟醸原酒 鳴門鯛
都道府県:徳島県
原料米:(麹米)…五百万石、北錦 (掛米)…大瀬戸 精米歩合:50%
日本酒度:+4.0 酸度:1.5
アルコール度数:16.0~16.9度 酵母:MGⅡ

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酒器への熱

趣味の入り口として、こんな本を読んだのがいけなかった。

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そりゃ日本酒で毎日晩酌しているのは事実だが、しかし呑みはじめたのがおよそ三ヶ月前、左党のひよっこであることは十分承知して、かような身で酒器にこだわるのは自分でもどうかとは思っているのである。でも、日本酒の好みを確立すべく初めての銘柄を分析しながら呑んでいる「現在」の向こう側には、好みの日本酒だけに囲まれて桃源に遊ぶ「未来」の姿を思い浮かべているのであって、むろんそのときにはこだわりの酒器を手にしていたいし、そのための知識を仕入れておくか、という経緯で『骨董の眼利きがえらぶ ふだんづかいの器』(著:青柳恵介、芸術新潮編集部)を手に取ったのである。

読了して日が浅いうち、まず自宅の冷酒用の器がこんな感じに。

Utuwa

松本良夫 白磁そば猪口 
暮らしのうつわ 花田

 

冷酒用が決まったら、次は燗酒を注ぐ杯、又はぐい呑みが欲しくなる。インターネットのまずいところは、こうした欲求を満たすアイディアが泉のごとくこんこんと湧き出てくる点にあり、詳細な検討の結果、次の照準が定まってしまった。かなり分不相応な一品なのだが、折をみて店舗に足を運び実物を眺めてこようと考える次第。いや見るだけですから見るだけですってば。

話が逸れた。『骨董の眼利きがえらぶ ふだんづかいの器』の優れた点は、興味をもちはじめの私たちでも十分手にとることのできる器の美について、骨董のエキスパートがああだこうだと意見を述べあう構成の妙にある。手練の人々の言葉が、高い浸透力をもって初心者たる私たちに沁み入ってくる、世にあまたある入門書の手本たりうる良書。

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天鷹酒造 純米大吟醸 天鷹純米絵巻

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同じ蔵元の大吟醸・天鷹ふるさとの絆で日本酒に目覚めた私であるから、この酒が合わないわけがなかった。ただ、私の好みは大吟醸のほうであった。

大吟醸・天鷹ふるさとの絆が、ひとくち啜るたび香りの花を蕾から満開にさせていくのに比べ、純米大吟醸・天鷹純米絵巻の場合、ひとくちめこそ香りの花は蕾から満開まで一気に突っ走るけれども、杯を重ねてゆくと、薄くながく続く前の杯の余韻のうえに、おっとりと優しくさらなる余韻が重なってゆく印象がある。香りの基調はパイナップルと若いメロン。こぷこぷ、と口に含んだ液体のなかで舌を泳がすと、優しいぬめりを覚えて心地よい。

天鷹酒造 純米大吟醸 天鷹純米絵巻
都道府県:栃木県
原料米:山田錦 精米歩合:43%
日本酒度:+2 酸度:1.7
アルコール度数:15.5度 酵母:10号系

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松の寿 吟醸/雑賀 純米吟醸

東京駅ナカ「グランスタ」はせがわ酒店にて、関西出張のお供に1合ボトルを2本購入。豊富な品揃えを前にあれこれ選ぶのがとても楽しく、駅にはそれなりに余裕をもって到着したはずが、新幹線ホームへのエスカレーターを小走りで駆け上がる始末であった。

夕暮れ時の車内で、まず一本。
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松井酒造 松の寿 吟醸
都道府県:栃木県
原料米:五百万石 精米歩合:50%
日本酒度:+4 酸度:1.4
アルコール度数:15~16度 酵母:T-1

すぅっと吟醸香が抜けていくさまが軽やかで、水玉色の粒つぶが口中を駆け回るかのよう…とまで言えば、ボトルの色の影響を受けすぎか。それより特筆すべきは、酸味の淡さ。新幹線車中でも感じてはいたが、宿泊先にチェック・インして次の酒を口にしたとき、その印象はまずます強まった。

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雑賀豊吉商店 雑賀 純米吟醸
都道府県:和歌山県
原料米:五百万石 精米歩合:麹米55% 掛米60%
日本酒度:+3 酸度:1.3
アルコール度数:15~16度 酵母:9号酵母

この酒は、酸味が味の基調にある。…こう書いてしまえば、寿司酢のそれを復刻したラベル(販売元HPより)の印象に引きずられすぎか。一口、二口と重ねるうち酸味の引きが早くなってくると、ほかの香りの色が浮かび上がってくる仕掛けを感じた。

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出羽桜酒造 出羽桜 吟醸酒(缶)

Dewa
御徒町のスーパー、吉池で購入。メロンとパイナップルの香りが凄い。とろっ、というより、さらっ、と舌に乗ってくる。ひりりとくる後味はなく、その優しさゆえにさくっと飲みきってしまい、しばし口腔内に残ったブドウ様の香りを陶然と味わった。

日本酒を、家ではつまみ無し&ナイトキャップとして呑む私にとって、香り高い吟醸酒の1合飲み切り、という形状は王道なのかもしれない。次回、魚の干物を仕入れる吉池詣での際には数本買いだめしておくことにする。

出羽桜酒造 出羽桜 吟醸酒
都道府県:山形県
原料米:出羽燦々 精米歩合:50%
日本酒度:+3 酸度:1.3
アルコール度数:15度 酵母:小川酵母

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斉藤酒造場 御殿桜 どぶろく

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出張で赴いた徳島で購入。冷蔵庫で少し冷やして呑・・いや、食べてみた。米の甘みと、半人前の酸味、アルコールの薄い膜を舌に感じた。味がどうこうというより、こういう商品って見かけるとつい買ってしまう。\215也。

斉藤酒造場 御殿桜 どぶろく
都道府県:徳島県
アルコール度数:12度

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大七酒造 純米生もと

日本酒の醸造過程において、酒造りに有用な酵母以外の雑菌を死滅させる重要な役割を担うのが、乳酸菌である。この乳酸菌を酒造りの現場にスカウトする方法は二種類あり、野球でいえば大学・社会人ドラフトで即戦力の選手を獲得するように、市販の乳酸菌を添加する方法を「速醸もと」という。これに対し、二軍でじっくり育成することを前提に高卒ルーキーを獲得するかのごとく、自然界にある乳酸菌をゆっくり取りこんでゆくのが「生(き)もと」と呼ばれる方法である。

じゃあ高卒1年目で活躍した投手はどうなるのか、とは問わないでほしい。野球の例えはキーを叩きながら「微妙に違うな、これ」と当人も思ってました。でも、その部分を除いた「速醸もと」と「生もと」の説明に間違いはないです。要は日本酒の製造工程において、最も手間がかかる造りかたで醸されたのがこの酒、というわけです。

Kimoto
大七酒造 純米生もと
都道府県:福島県
原料米:五百万石 精米歩合:65%
日本酒度:+2 酸度:1.6
アルコール度数:15度 酵母:協会7号

瓶が小さいのは目の錯覚ではありません。1合瓶ですが、常温と燗を試しました。まず常温から。うむむ、遠くからみると一色だけど、近くでみるといろんな糸で織られた織物のように味の数が多いです。複数の味わいが、整列して行儀よく押し寄せてくる感じがします。

次に、ぬる燗。うお、何とまろやかな。なかでも舌の両サイドで感じる旨みがいちばん強く、ちょっと調べてみると、舌の両サイドで強く感じるのは「酸味」とある。そうなのか。あの旨みの正体は酸味なのか。それと、燗をつけたときに特徴的だったのは、酒を含んだまま鼻から空気を抜いたときの香り(含み香)がやわらかく上品だったことでした。

ちなみに、このお酒をソムリエの第一人者が評するとこうなります。

香りは、白い花や白桃のコンポートのような上品な香りに、ミネラル香、そして生もと特有のクリーム系の香りと、ほのかに海のヨードの香りを感じる。味わいは、まろやかでバランス良く、余韻に心地よい旨味と酸味がコクを与えている。
(田崎真也氏:dancyu 2001年3月号)

なるほど、と田崎氏の形容に膝を打ちつつ、燗から冷えかかりの純米生もとをごぶり、とかなりの量を一口で飲み干したらこれがえらく美味しかった!1合瓶で冷と燗の感想を書こうとしたため酷くちびちび舐めていたことの反動と、燗冷ましでも美味いこの酒の特性がみごとに合致したものと思われます。いや合致と呼ぶには前段があまりに貧相か。

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天鷹酒造 純米吟醸 天鷹心

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大吟醸の次に呑んだのは、純米吟醸「天鷹心」。冷~常温~人肌燗まで、いろいろな温度で味わってみました。

まずキンキンに冷やしたところから。・・・う、うーん。味の数が少ないように思えます。そのなかで、いちばん感じるのは渋みです。ピリっとした、軽い渋み。

次に、常温でしばし放置したもの。・・お、おおっ!米の匂いが感じられ、さらに渋みが消えて酸味が出てきました。露骨に味の数が増えたなあ。日本酒本によく出てくる「味がほどけてくる」という表現は、このことを指すのか。

そして人肌燗。写真の徳利を使い、一合をレンジで25秒。いただきます。

おおおおおっ。キターーーッ@山本高弘。何がキタって、口に含んだ瞬間いろんな味が塊となってどぉーんと。ドラゴンボールで孫悟空が放つ”元気玉”も真っ青。次に飲み干してみると、酸味がほのかに舌に残り、甘みや米の香りやいろんな味わいが放射状に弾けたのでした。

よし、次はもう少し温度を上げてみよう・・というところで瓶が空。ごちそうさまでした。

天鷹酒造 純米吟醸「天鷹心」
都道府県:栃木県
原料米:山田錦/五百万石 精米歩合:52%
日本酒度:+5  酸度:1.6
アルコール度数:15.3度 酵母901、1401

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天鷹酒造 大吟醸「天鷹ふるさとの絆」

それまでの私。家ではほとんど晩酌をせず、年十数回ほどある地方への泊まり出張の際にビールでも焼酎でもウイスキーでも日本酒でも梅酒でも、呑みたい酒をまとめ呑みする程度の酒呑みだった。

「それまで」とは、この酒を口にするまでのことを指す。

 

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天鷹酒造 大吟醸「天鷹ふるさとの絆」
都道府県:栃木県
原料米:山田錦 精米歩合:43%
日本酒度:+4 酸度:1.4 アルコール度数:17度 酵母:9号系

 

息子の誕生祝いにと、友人が贈ってくれたもの。仕事が忙しく、帰宅しても頭のテンションが落ちなくて、脳の中枢がぶううんと唸っている印象だった3月末。眠りも浅く夜中に眼を覚まし、そういや貰った酒が冷蔵庫にあったな…と、適当なグラスに注いで一口舐めた瞬間、震えるほど身体に染みわったのだった。

それまで吟醸酒や純米酒を口にしたことがなかったわけではないが、居酒屋でそれらを(美味いなあ)と思って呑んでも、好印象はあくまで一過性のものであった。それが「天鷹ふるさとの絆」体験からこのかた、毎日日本酒で晩酌するようになってしまっている。これはおそらく、私が栃木県出身であることが原因だろう。栃木では高校までを過ごしたが、中学~高校まで明け暮れたサッカーの練習後にそれこそ毎日水道水を腹いっぱい飲み込んでいたのだから、故郷を離れた今となっても栃木の水と「水が合わない」わけがないのである。

肝心の味について、日本酒晩酌歴1ヶ月強の身では語るべき語彙を持たない。でも、私にとっては体内組成を変えてしまうほどの威力をもった酒であったことは確かで、これから色んな日本酒銘柄探検に足を踏み出そうとしている現在、「いざとなれば”ふるさとの絆”に戻ってくればいいや」と思えるのは何より心強い限り。

いつか経験を蓄えて、写真も蔵元からの借り物ではなく(すみません)、自分の言葉でその味を語れたらいいなあ、と考えている。

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